CASE時代の情報の伝え方に役に立つ触覚研究

ハプティックス研究の第一人者、慶應義塾大学 KMD 南澤孝太准教授に聞く

触覚のデジタル化による可能性

触覚は「力 / 振動 / 温度」の「3原触」で再現できるという。この3要素を使い触覚をデジタル化、情報として伝えることが可能になる。これらを応用し、様々な新しい取り組みを行っているという。

触覚のデジタル化で、離れた相手に自分が感じている感覚を伝えることができ(図1)、触覚の拡張も可能だ。触診など指先で感じる小さな変化を補聴器のように増幅できる(図2)とより確実な診断が可能になる。

最新の研究では触覚検索やデータベース構築、さらに発展させて、ディープラーニングを使い、画像から触覚を再構築する研究も行っている。感覚的な体験のデジタル化は新たな可能性を広げている。

安心・安全
気配を伝えるインターフェース


触感はもともと危険を察知するためのプリミティブ(原始的)なもの、その場の空気感を伝えるのに最適な感覚だ。細かい情報の認識は聴覚や視覚などが得意だが、触覚は気配の認識に優れている(図3)。音響設計で空間を作るように、触覚も体への3点以上の刺激で空間を感じる体験を作ることができる。これを応用すれば、例えば運転中、自転車など車に近づくものに対して近接感のようなものを伝えられるかもしれない。
安全運転は余計な行動を誘発させないことが重要だが、触覚を使うことでドライバー自身がハッと気づく意識としての注意喚起を作ることができる。より安全な運転を誘導することができるかもしれない。

新たな楽しさ、驚き、心地よさ

今まで得たことのないような感覚体験の研究も行っている。靴底に振動を与えることで浮遊感を得られる(図4)ことや、振動を体の広い面積で感じると想像以上のインパクトがある(図5)ことも開発の中で分かってきた。アクセルの踏込感覚を変え、踏み込む力をコントロールできれば、運転体験を変えることができ、未知な感覚の楽しさや驚きを提供できる。現在は先端技術を利用しやすいエンタテインメントやスポーツ等の分野に研究成果を展開しているが、自動車も取り組んでいきたい分野の1つだ。


CASE時代、安心・安全のためのクルマの機能は増え、クルマから発信される情報も複雑化している。触覚を使うことで情報を整理、ヒトが自然に感じる気配や雰囲気を伝えることで、クルマはより安全で快適化、ドライビングも人馬一体となり、よりヒトに近いものになる。